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カタツムリ 1回目へ

      底力のある国、イタリア                  工房主の考察


  キーポイント
   <1>ゆとりのあるライフ・スタイル(食べること、しゃべることなど)、
      自然を大切にし個性的で美しく、活気ある人々の暮らし。
      (人と違って当たり前という意識)

   <2>あらゆる場面(町並み、家、家具、人・・・)で、古い歴史を大切にして、
      それを現代的なセンスでよみがえらせ、市民生活の舞台として上手に活用。

   <3>どんな小さな町でも、毎日中心街や広場に人々が集まり、散歩やおしゃべりを楽しみ、
      人が孤独にならない。
      美しい町並みは誇りであり、広場は社交の場である。
      さらには、劇場空間として、見る、見られることの意識の発達。

   <4>人々のあり方の“見本”が見られることの幸せ。紀元前のエトルリア時代の文化、
      ローマ時代、中世、ルネッサンス時代の文化などが眼前に存在している。
      歴史のつながりの中で生きているという実感がある。
      本当の意味での愛国心や郷土愛を持っている。



 シエナ(SIENA)の街を例にして

 <歴史・風土>
  ・イタリア中部、トスカーナ州の内陸の町。
   緯度は北海道位だが、地中海性気候のためひどく寒くはない。
   湿度が低い。
  ・豊かな耕作地や牧草地としての丘糸杉などのある美しい数百年変わらない風景。
   その風景で、人の手の入っていないところはほとんどない。
  ・紀元前8世紀ぐらいからエトルリア人が住む。
   紀元頃からローマ人が支配。
  ・中世(11、12世紀)に自治都市として独立。
   (エトルリア人は小アジアから来たといわれている。)
  ・丘の上に作られた城壁都市。
   イタリアは歴史的に都市国家だったためこのような町が無数にあり、
   これらが一つの国として統一されたのは1861年である。
  ・フィレンツェとの抗争などがあった。
  ・13〜14世紀に町が最も栄え、その時代に多くの公共建築や教会ができた。
   それが現在も使われている。
   (14世紀半ば、ヨーロッパをおそったペストによって、人口が半減したこともある。)

 <現在のシエナの町の様子>
  ・人口6万人弱。
  ・シエナ色(茶褐色)をした統一感のある屋根瓦。
    *シエナの土から採った絵の具で“バーントシェンナ”“ローシェンナ”がある。
    (cf.フィレンツェの屋根は褐色)
  ・中世以来の石や煉瓦造りの集合住宅(アパート)、石畳の道。
  ・教会と市役所が広場をはさんで向かい合って立っている構成。
   それらを中心に街が造られている。
   これはどの町も同じであり、即ち、現世と来世が向き合っている。
  ・教会(カトリック)は人々の心のよりどころであり、過去のものや美術品としてでもなく、
   また、ミサや様々な行事に使われるだけでなく、音楽会などに現在も機能している。
  ・広場は政治や生活の中心であり、人々が集い楽しむコミュニケーションの場である。
     *シエナには世界一美しいと言われている、貝の形をした「カンポ広場」がある。
      そこで、年2回行われる“パリオ”という地区対抗の競馬が有名である。
  ・町の中心街に人が集まる。
  ・街は、互いに見る、見られるという演劇的空間と言う感じで、
   それがお洒落の発達にもつながっている。(特に男女の意識)
  ・中世に造られた“城壁”に囲まれた街で、現在はその外にも街は拡大している。
  ・商店の看板が道に直角には出ていない(交通標識や薬局は除いて)ので、
   数百年前と同じ様子に見える。
  ・石畳の道は馬車の歴史が長いので、道幅が広く、中央部が低くなっていてそこに排水口があり、
   下水道が古くから完備している。
  ・集合住宅の1階は個人商店や事務所、レストランなどになっていて、2階以上が住宅になっている。
   住空間と商空間が同時に存在している。(3〜4階建てが多い)

 <住い方>
  ・石または煉瓦造りで、夏は室内の方が涼しい。
    特に煉瓦はリフォームの際、間取りなどをいかようにも変えることができる、
    フレキシブルな素材である。
  ・数百年変わらない建物、風景の中に“保存”ではなく修理をしながら住んでいる。
    それ故、中世以来の祖先も父母も自分も子も孫も同じものを見て育ち、
    暮らすということになり、話しが合うということもある。
  ・外観は古いが、中ではモダンな生活をしている。
    美観や環境を守るための厳しい法律や国や州の指導が強く、一般の人々も
    美しい風景を後世に残そうという美意識を先行させている。
    家具などのイタリアンデザインのセンス、また、アンティークなものもすばらしい。
  ・最初の都市計画で(中世の時代)下水道も完備していた。
    イタリア人は古来、土木工学に優れていた。
  ・住まいは集合住宅だが、中での個々の生活は各々の自由である。
    例えば、部屋の間取りがそれぞれ違うなど、日本とはかなり異なり、
    個性の重視やプライバシーの保護はゆき届いている。
  ・室内は天井が高く、壁は白い漆喰、タイルや石の床、明かりは間接照明、窓には陽よけや
   防寒のためのよろい戸がついている。
   風呂は一般的にはシャワーのみのことが多い。
  ・防犯への意識は強く、鍵は二重が当たり前で、必ず集合住宅全体の入口が
   インターホンによるオートロック方式になっている。
  ・室内装飾(インテリア)や、お洒落を大切にし、古いもの(アンティーク)を大事にし、
   後代に伝えようとしている。
  ・歴史的な建築、町並みの美しさ、外壁の装飾(ロマネスク、ゴシック、ルネッサンス様式の彫刻や
   フレスコ画など)のすばらしさを誇りに思い、残し伝えようとしている。
  ・現在の住宅は、景観を守るための法律もあり、新築より修復再生(レスタウロ)の方が多い。

 <商店>
  ・個人商店がほとんどである。
    スーパーマーケットとしては“COOP”(生協)があり、他にスーパーもデパートもあるが、
    日本のように大きくはない。
    その特徴として、下のようなことがあげられる。
     ・話しをしながら買い物ができる。
     ・そこにしかない商品がある。(他の町には売っていない)
     ・切り売り、量り売りであり、パックでない良さがある。
     ・包装が簡単、簡素である。
      (クリスマスなどのプレゼント用な別で、とても美しく包んでくれる。)
     ・ゴミが少なく、分別しやすくリサイクルもしやすい。
  ・新鮮でおいしい地元の食材が豊富であり、町の近郊に畑があるためか、価格も安い。
    それが、その土地の味であり、全てに勝る“マンマの味”になる。特に食文化は発達していて、
    「食べること」を大切にしている。
    無農薬や有機栽培などの表示についても厳しいチェックがあり、
    また、スローフード発祥の地でもある。
  ・昼食がメインなので、昼休みが長い。
    1時頃から3時半ごろまでは商店も休みが多い。
    営業はAM8:30〜1:00、PM4:00〜8:00頃で、日曜は休み。
  ・ウィンド・ショッピングが楽しい。
    洒落た店舗、デザインの美しさが道を歩く人の目を楽しませる。
    ショーウィンドウは各商店で週に1、2度は模様替する。
    それは、イタリア人が散歩好きのせいもあるかもしれない。
  ・手仕事を大切にしている職人の町である。
    家具や皮革製品などの手仕事とテクノとが共存している。
    それが、ヨーロッパの底力になっているようである。
  ・夜は歴史的建造物をライトアップする。
    それはまるで時が止まったような美しさである。
    (町のイルミネーションは白熱灯がほとんどで、これもイタリアの美意識。)
  ・町の中には観光の車を入れない。
    町の城壁の門の外(出入口)に駐車場を完備し、観光客は街を歩いて回る。
    シエナの町は端から端まで30分もあれば歩ける。
  ・大人の町。
    映画やコンサートなどは、夜の10時からということも多い。
    生活や行事のほとんどが、大人の価値観で考えられている。(家庭も子供中心ではない。)
  ・露店のにぎわい
    広場に定期的に“市”が立ち、衣服や日用雑貨、食品など、市民生活に定着している。
  ・“BAR(バール)”が生活の一部になっている。
    バールといわれる喫茶店は、エスプレッソコーヒーやカプチーノを1ユーロ(165円位)程度で
    立ち飲みで飲むことができ、人々は一日に何度も立ち寄る。
    そこではワインや食後酒などを飲んだりもする。
    (ディスコはあるが、日本のような飲み屋やバー、クラブなどはない。)

 <人々の暮らし ーーシエナ人達の場合>
  ・郷土愛、郷土意識が強い。(“カンパニズモ”と言う)
    都市国家の伝統があり、歴史・伝統・文化・風景・母の味など、
    自分の生まれ育った町に誇りを持っている。
    日本の“東京志向”のようなものはない。
    自分をイタリア人という前に「シエナ人」と呼ぶ。
    (cf.ミラネーゼ、フィオレンティーナ)
    歴史的にフィレンツェへの対抗意識はある。
  ・家族愛を大切にしている。
    毎日昼食は家族一緒にとる。父親の存在感があり、躾もきびしい。
    また、日曜の昼は祖父母宅などで兄弟が集まって昼食をともにする。
    通勤は一般的に近いため、昼食は帰宅し3時過ぎにまた出勤する。
    学校も午前で終了、昼食は普通1時頃からなので、帰ってから食べる。
  ・家庭教育が基本
    学校は午前のみのため、午後は家の手伝いや社会教育のスポーツクラブや合唱、
    教会の仕事などをしている。
    また、“人は考えが違うのが当たり前”ということが徹底していて、
    たからこそ意見が違っていても仲良くできる。
    そして、人には迷惑をかけない。
    自分にしたいことがあるように、他人にもやりたいことがあるということを
    きちんと認識している。
  ・あいさつの国
    大人から子供までみんながきちんと言葉であいさつする。
    ーーーチャオ・ボンジョルノ・グラーツィエ・プレーゴ・・・ーーー
       (こんにちは・ありがとう・どういたしまして・・・)
    握手やほおずりなどのスキンシップも多い。
  ・おしゃべり・会話好き
    世代を越えての会話があちこちでみられる。
    それは、食べ物、政治、サッカーの話、世間話など、にぎやかである。
    学校の試験も、小学校の時から60%は口頭試験だそうで、話すことをとても重視している。
  ・外の空気が好き
    食事も戸外でとるのが好きで、レストランでも外の席から満席になっていく。
    人々は散歩が好きで、広場や道での立ち話も好きである。
    お年寄りも勿論散歩好きで、お洒落も楽しみ、ひきこもりやとじこもりなどは、ほとんどない。
  ・人々が各々自分の仕事に誇りを持っている。
  ・大学はきちんと勉強するところ
    当たり前のことだが、大学生はきちんと勉強する。
    全てが国立大学で、希望者は入学できるが、卒業するのは大変で、
    4年間ではなかなか卒業できない。
    卒業論文は本として出版できるくらいだという。
  ・人との交流をだいじにする
    友達や親戚を招いてのホームパーティーが多い。
  ・活気あるイタリアの経済
    産業は、全体的に“地場産業”であり、日本のような大手依存ではなく、
    家族中心の売上高よりも利益率を追求する小企業が多い。
    その小企業は“自主・自立”の精神にとみ、小企業同士の“連携”が多く、
    企業を結びつけるコーディネーターの存在が大きい。
    高くても“良いもの”をという“高付加価値”の考え方である。
    それぞれの町が違った生き方をしているからこそ、都市間の連携、
    ネットワークに意味が出てくる。
    必ず「見本市(フィエラ)」があり、世界中からバイヤーが集まる。
  ・基本的な生活費が安い
    衣、食、交通などの費用が、贅沢な物でなければ安く手に入る。
    (ブランド品は高級品で、庶民の物ではなく“マダム”などのものである。)
  ・アグリトゥーリスモ
    農家を改装した民宿または貸別荘のようなもので、ヨーロッパの人々がヴァカンスなどに
    家族で長期滞在する、今人気の宿である。
    トスカーナ地方に特に多く、農作物、農作業、また田園生活を楽しむところである。
    イタリア人は、それらのことを大変誇りに思っている。
  ・スロー・フードの国
    健康で安全な食事のために、家庭の料理を大事にし、ファースト・フードを好まない。

 <イタリア人の生活の基礎について>
  ☆仕事が人生の目的ではなく、個人生活を満足させるための手段と考えるイタリア人。
   毎年、長期の休暇をとり、安心して“生”を謳歌。
   子供からお年寄りまで目が輝き、美しいものを愛で、人間らしく暮らしている。
  ☆イタリアの明るさや豊かさを、ラテンの民族性にためと言われているが、
   それ以前にきちんとした歴史や文化、法律の積み重ねによる知恵からきているものである。
   それには、宗教心と教育の力が大きい。

   ・何百年も使える住宅と別荘
   ・相続税が安い
   ・休暇を中心に一年を暮らす(学校の夏休みは6月中旬〜9月初旬)
   ・過労死がない
   ・ヨーロッパで一番の年給支給率の良さ
   ・医療費は無料
   ・生命保険に入っている人は少ない
   ・消費税は内税で、物により段階で分類されている
     〈例〉食品(パスタ、肉など)は4%・衣類は10%・自動車は20%
   ・贅沢品(ブランド物など)はあるが、基本的な生活の物は比較的安い
   ・政治への関心が高い
     選挙投票率が高い(81.4%=2001)・選挙費用は全て国費
     デモ、ストが多い(高校生も。‘01米テロ報復戦争・‘03米イラク攻撃反対)
   ・原子力発電所は廃止(‘87チェルノブイリ事故後、国民投票で決定)
   ・自動販売機がない
   ・酔っぱらうことを、恥ずかしいと考えている
   ・ゴミ税がある(フィレンツェでは家の広さを基準にかけられるが、収集車は毎日来る)
   ・仲が良くても、各々の意見はきちんとたたかわせる
   ・弱い人間を大事にする
   ・ノーブレスオブリッジ(お金持ちは貧しい人を助けるのが当たり前という、
    宗教心からくる精神)がある

 <イタリアの教育について>
  ☆学校は勉強の場
  ☆躾は家庭で親がするもの
  ☆「皆が違って当たり前」という考え方
   ・授業は午前中(小学校〜大学)
   ・クラスは最高25人(小学校〜高校)
   ・いじめ、体罰、校内暴力はない
   ・日常的にきびしい試験があり、小学校でも落第がある
    口頭試験が中心で、自分の独自の考えを述べなくてはならない
   ・誰でも上の学校に入れるが、卒業試験は厳しい
   ・受験戦争、点数競争がない
   ・進学塾などの受験産業はない
   ・大学は卒業までにたいてい6〜7年かかり、3割位しか卒業できない
    (高校は6〜7割)
   ・ほとんどの学校は国立で、親の経済的負担は少ない
   ・徴兵制度は廃止された


      *参考にした本*
          「イタリア小さな町の底力」     陣内 秀信著 講談社
          「イタリアの田舎生活の愉しみ」   有本 葉子著 海竜社
          「なぜイタリア人は幸せなのか」   山下 史路著 毎日新聞社
          「シエナーー夢見るゴシック都市」  池上 俊一著 中公新書
          「イタリア中年ウロウロ滞在記」   羽田 龍史著

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